今年は、海外64か国・地域から344件の応募がありました。厳選なる審査の結果、ロドリゴ・ゴンザレス・カスティージョ(メキシコ)、ナンデシャ・シャンティ・プラカシュ(インド)、シビレ・ノイマイヤー(ドイツ)を選出しました。3名のアーティストは、9月11日から12月19日までの100日間、茨城県守谷市のアーカススタジオで滞在制作を行います。
審査は、堀内奈穂子氏(2013年度ゲストキュレーター/NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]キュレーター)、キース・ウィトル氏(招聘キュレーター/インディペンデント・キュレーター)、アーカスプロジェクト実行委員会の協議のもと行いました。
メキシコ
2009年、メキシコのベラクルサーナ大学卒業。大理石の石版画を中心に、石灰岩、ポリエステル・プレート、木版画、リノリウム版画など、多岐に渡る素材や技法を用いた版画制作を行う。2009年から2013年までメキシコの主要なアート・センターの一つである『La Ceiba Gráfica』にて、アーティストの 版画制作補助や、実験的な版画ワークショップを手がける。
インターネットの発展により、異文化のイメージに簡単にアクセス、共有できる現在において、メキシコ北部のウィチョール族の民芸品や、日本における木版画など、特定の地域において発展してきた視覚言語や、その生産過程に関心を持つ。主な個展に、「Local tótem」(モンテレー近代美術館、メキシコ ほか/2012)、また、主なグループ展に「La expendeduría」(サン・ミゲル・デ・ アジェンデ、メキシコ/2013)、「Sabor」(レオナルド・コデックス・アート・アッサンブラージュ、ニューヨーク/ 2012)、「Lo continuo y lo discreto」(ガレリア・デ・アルテ・コンテンポラーネオ・ハラパ、ベラクルス/2010)などがある。
Workshop “Draw me Something” with a ceramic circle at Moriya Manabi-no-sato
Carving at the studio
Workshop “Draw me Something”
Install woodprints in Moco-bus (Moriya community bus)
NOW&THEN
Installation
Install woodprints at several places in Moriya
「Now&Then」は、絵や版画を通した守谷市の高齢者と子どもたちの視覚言語間の比較に着目したプロジェクトです。このプロジェクトの目的は、日本、守谷市での日常生活、個人的なありさまを直接的に他者に見せることへの関心と関係があります。物事をつたえる初歩的な手段として、絵や版画をつかい、私は同じ都市に暮らす高齢者と子どもたちが分かち合える、コミュニティやアイデンティティに対する感覚を伝えたいと思います。このプロジェクトの参加者に、視覚的な相互作用を引き起こすことで、新しい意味と関係を見いだして欲しいと考えています。
行方不明の人々のポートレートを展示したインスタレーション「DESAPARECIDOS」や、ストリート上で車や古代遺跡のようなモチーフを彫った版木を積み上げた「TOTEM」など、現代のメキシコの社会状況やイメージを、版画の技法を使って表現しているところに興味を引かれた。アーカスでは、子どもと年長者の二つの世代に焦点をあて、学校、コーヒー・ショップ、 図書館、病院などを訪れながら、彼らの関心や記憶、未来に抱くイメージなどをリサーチする。そうして集めた情報は、最終的に木版画として表現される。彼自身の文化的、社会的な背景と、守谷で彼が見つけたものがどういう共通項や差異を持ち、それらがどのように作品や展示に現れるのか、一見、伝統的ともいえる「版画」の表現の拡張を見てみたい。(2013年度ゲストキュレーター/NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]キュレーター 堀内奈穂子)
メキシコ出身の視覚芸術家として,ロンドリゴ・ゴンザレスは特に日本の木版印刷(木版画)に興味を持ち,現代の状況において、木版画が、その知識やアイディアの交換を通して生み出す意味の可能性を提供しようとしています。
彼が過去の作品において、サインシステムへの興味を示したように,アーカスへの応募内容からは、彼は記号論やコミュニケーション理論、また瞬間的・感情的なつながりをについて実践したいのだろうと考えられます。またこのプロジェクトによる調査では日本だけにある文化的なイメージや象徴についての理解を彼に提供するものと考えられます。(招聘キュレーター/インディペンデント・キュレーター キース・ウィトル)
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インド
バンガロールのカレッジ・オブ・ファイン・アーツC.K.P.で応用美術を学んだ後、ハート・アニメーション・アカデミー・ハイデラバードにてアニメーションを、バンガロール大学にて版画を学ぶ。2006年、バンガロール・アーティスツ・センター、アーティスト・イン・レジデンス・プログラム(BAC)を設立。工芸品や既製品と共に、広告やプロパガンダといった人々に伝達されやすい表現を組み合わせ、複雑な現代社会のあり方や、特にインドにおける政治意識に問いを投げかける彫刻やインスタレーションを制作している。これまでの主な展覧会に、「Give Me The Thumb of Your Right Hand」(スムカ・ギャラリー、バンガロール/2013)、「Chennai Art Festival」(アパラオ・ギャラリー、チェンナイ/2011)、「TRIAD Contemporary Art of India」(ラブランド・ミュージアム、コロラド/2010)、「Video Art Festival at Chitra Santhe」(チットラカラ・パリッシャース、バンガロール/2009)などがある。
Conduct questionnaire survey about change at Open Studio #01
jivana farm, organic vegetable farmer
Check the condition of sprouts
Research on scrap materials at Joso Environmental Center
Hanging Garden
Installation
Jivana – The Life/Existence
Video, 6’
現代の生活の日々にそって、伝承世界を現実化していくことを通して、私は、現実世界と伝承世界の深淵についての作品を制作しています。
これらの作品は、まるで錬金術を習得しようとするような、答えも無く終わりも無い知識についての探求ですが、人間の存在の経験の一部となるような旅の過程です。
この試みは世界の中ではとても些細な振る舞いです。ただ、ひとりの人間、ある国家に属する社会の一員として、また、”私たちの世界”と呼ばれる大きな想像体の一部である私の現実をしるための美学的な実践です。
石材切断用のカッターにアメリカのアニメのヒーローを彫り、メダルにした彫刻や、兵士が私物を入れる箱(フットロッカー)を積み重ね、その周りにインドの伝統的な叙事詩をコミック調に印刷したインスタレーションなど、一見親しみやすいモチーフの中に、実際にはインドの歴史や戦争、アメリカ、ヨーロッパの影響が避け難い現代の状況を映し出している。そうした視点が、彼が日本に滞在することで、どのように投影されるのか、また表現されるのか、好奇心が湧いた。アーカスのレジデンスでは、守谷で見つけた古い道具や機材などを再利用し、地元の文脈や歴史のリサーチをしながら作品制作を行う予定。日本初滞在となるプラカシュが、日本で出会う素材や、職人との共同作業から何を発見し、どのように知識、技術、アイディアを交換しながら物語を紡ぎ出すのか見てみたいと思った。(2013年度ゲストキュレーター/NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]キュレーター 堀内奈穂子)
彼の作品はスタイルや材料の面では、特徴的なものでないのですが、-主要な目的としてその地域の人との交流やコミュニケーションが繰り返されるプロジェクト-過程,時間,場 所,環境そして大衆に広くアイディアの普及,地域の環境,人々,参加者、社会が制作の中で原理を有効に活用し,社会的に実体的にプロジェクトの調査を理解するための調査になっています。プラカシュのテーマと制作への取り組みは、アーカスプロジェクトにふさわしいものであると私の心をうちました。急速な近代化を反省する時代である最近の日本の状況において、異例の速さで都市化や都市膨張が広がっているアジア太平洋の状況で、プラカシュのプロジェクトを通して、社会そして都市は、先入観を変え、地方、多様性、相違点、特殊性といったメリットが強調され、新しい議論が形成され、異なるグルー プと付き合うチャンスが生まれることとなるでしょう。(招聘キュレーター/インディペンデント・キュレーター キース・ウィトル)
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ドイツ
コミュニケーション・デザイナー、アーティスト、リサーチャーなど、多様な活動を行う。ヴュルツブルク大学にて言語科学、美術史、民族学を学んだ後、2011年、ヴュルツブルク応用化学大学コミュニケーション・デザイン科卒業。同年、ベルン芸術大学大学院にて情報・コミュニケーション科修了。考古学、植物学、地形学など、さまざまな学問分野に関心を持ち、そのリサーチやフィールドワークを元に、気候や自然現象などをモチーフにした映像作品やインスタレーションを制作している。これまでに、モンゴルやドイツ、スイス、クロアチアなど、多くの国に滞在した経験を持つ。主な個展に、「silence of nature/nature of silence」(アカデミー・シュロス・ソリチュード、シュトゥットガルト/2013)、「past present, presence absent – urban aspects」(POGON、ザグレブ/2013)、主なグループ展に「In Our Backyards」(ベルクシャウ/ ホール12, ライプツィヒ/2012)、「x:1 – the invisible part of the iceberg」(アカデミー・シュロス・ソリチュード、シュトゥットガルト/2011)などがある。レクチャーやワークショップも多数行う。
Interview with Honda Takako, a botanical artist
Visit to jivana farm
Workshop “common ground”
Experience catching Asian giant hornet
dialogue
2-channel video installation
Open Studio #01
peripheral observations: specimen01
Single-channel video installation
私は人間と自然の関係に着目したプロジェクトを行っています。日本滞在中に現在と未来とが層をなす歴史について調査しています。食物や土壌、環境と、私たちとのつながりはどのように転換しているのか。身近な地域の状況を観察し、なおかつグローバルな構造の仕組みについて再考することで、個人的な経験に基づいた知恵と、身体感覚では計り知れない私たちをとりまく環境への理解とあいだで対話を成り立たせてみようとしています。私は静かな観察者となってそっと入り込み、単純で小さなものたちに興味を持つのです。
美術以外のバッググラウンドを持ち、その作品も、ハチの生存の危険性、ゴビ砂漠から涌き上がる水源、歴史に埋もれた廃墟など、多様なのが面白い。一つのハチの巣に生息する8分の1にあたる7,614匹のハチの死骸を用いたインスタレーション「女王に捧ぐ最後の唄」では、古代のミイラのように、ハチの死骸を一匹ずつ蜂蜜の入ったガラスチューブに入れ、保存している。そうした作品は、気候の変化を知らせる動植物の小さな反応、季節の変化によって現れるかすかな自然の形跡を詩的に映し出すと同時に、絶滅の危機や、自然をコントロールしたいという欲望を持つ人間のエゴに対する問いにも取れる。今回のレジデンスでは、科学者や植物学者と意見交換をしたり、地元の人々とともに守谷の生物多様性をリサーチする。彼女の視点、アプローチは、作品に限定されず、守谷の新たな側面を見せてくれるような期待感をもらえた。(2013年度ゲストキュレーター/NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]キュレーター 堀内 奈穂子)
彼女の作品は、馴染みのあるもの-空間や背景-を表現しながら、しかしそれらに対する私達の認知を、アイディア、環境、対話を通じて変化させます。それは、創造的な行為として作品との相互作用と同じく大切なものです。彼女の作品は、普段は隠されているものを目に見えるようにし、また、一見つかみどころがなく克服できないものの無視することのできない大切な力へと、私達を引き込ませるのです。ノイマイヤーのレジデンスの提案は、文化と自然に関する重要な問いに取り組んでいるとともに、そのプロセス及び調査には十分な土壌があります。(招聘キュレーター/インディペンデント・キュレーター キース・ウィトル)
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