Artist in Residence Programアーティスト・イン・レジデンスプログラム

2016 レジデント・アーティスト

  1. エルネスト・バウティスタ(エルサルバドル)
  2. ガン・シオン・キン(マレーシア)
  3. イェン・ノー(韓国)

今年は、海外89か国・地域から656件の応募がありました。厳選なる審査の結果、エルネスト・バウティスタ(エルサルバドル)、ガン・シオン・キン(マレーシア)、イェン・ノー(韓国)を選出しました。3名のアーティストは、8月25日から12月12日までの110日間、茨城県守谷市のアーカススタジオで滞在制作を行います。

審査は、服部浩之氏(2016年度ゲスト・キュレーター/インディペンデント・キュレーター)、南條史生(アーカスプロジェクトアドヴァイザー、森美術館 館長)、アーカスプロジェクト実行委員会の協議のもと行いました。

2016年度の選考結果について

まず、656件という応募総数に驚かされた。秋吉台国際芸術村と国際芸術センター青森[ACAC]を合わせて、約10年間アーティスト・イン・レジデンスの現場に関わってきたが、これだけの件数の応募を経験したことはなかった。日本のレジデンス機関の先駆けとして、アーカスプロジェクトが築いてきた歴史や存在の重要性、アーティストたちからの期待を実感する結果だった。

アーカスプロジェクトは選考過程がユニークで、例えば最終審査まで残ったアーティストに依頼した2分間の自己紹介ビデオは、それ自体とても興味深い資料で、作家のキャラクターも垣間見ることができ、選考を進めるうえで大きな手がかりとなった。応募者の国籍や出身・在住地、年齢層、表現手法など、本当にすべてが多様で、この10年でいわゆるレジデンス慣れしている作家だけでなく、より幅広いアーティストたちがレジデンスの機会を求めていることも感じた。

最終的には、単純に完成度が高い作品を目指すことや滞在制作の明確な目的をもっていることよりも、作家の人間的な魅力や守谷に滞在することで期待される発見や変化の可能性を重視し、プロセスを一緒に作っていけると思われるアーティスト3名を選出した。
服部浩之(2016年度ゲストキュレーター)

2016 Resident Artist

エルネスト・バウティスタErnesto Bautista

エルサルバドル

 

1987年エルサルバドル、サンタ・アナ生まれ、サンサルバドル在住。主な展覧会に「LITTLE STORY OF DEMOCRATIZATION OF FEAR」(ホンジュラス人類博物館,テグシガルパ,ホンジュラス,2015)、「BIENNIAL OF THE FRONTIERS」(タマウリパス現代美術館,タマウリパス,メキシコ,2014)、「X」(エルサルバドル美術館,サンサルバドル,エルサルバドル,2014)などがある。アメリカのサンタフェ・アート・インスティテュートをはじめ、中国、カナダ、コロンビ ア、メキシコなど世界各地でアーティスト・ イン・レジデンスを経験している。治安が不安定なエルサルバドルに暮らす彼自身の背景に呼応するかたちで、身近にある暴力や死、争いなどを強く意識し、人間の存在や生の本質的意味を探求する。血や銃弾、炎、人骨、刃物など、死や暴力を直接想起させるものを素材とし、社会や政治の諸問題を主題に、彫刻やインスタレーション、映像作品を制作している。

活動の様子

Lighting test for shooting interview

Interview at the studio

Interview with bonsai artist Morimae Seiji

Editing the film

オープンスタジオ

The infinite memory
2-channel video installation

 

 

アーティスト・ステイトメント

日本に滞在するエルサルバドル人として、私にむけられたこの変化や新しい視点をはかるのは難しく、私にとって、この経験は、23年にわたりこの現代アートの世界でプロフェッショナルに活動し、知識をためているアーカスプロジェクトにおいてプロフェッショナルなネットワークを築く、または(私にとって始めての日本滞在で)私自身を変化させるだけでなく、いままで以上に、実験的で重大なプロジェクトに取り組むために、アーカスプロジェクトが与えてくれたこの運命は非常に貴重です。

私のキャリアに最も深く影響する、この110日間の滞在に感謝します。私の国と日本の哲学のあいだにある関係について取り組み、私自身にとって大切なものを再考する方法を生み出します。そこから表れるものが、これからの私の行き先に反映されることでしょう。

審査員のコメント

素材の選び方や作品の主題がとても直接的であったが、その分主張は明確で鮮烈な印象を受けた。また、作家自身のバックグランドと作品が強くリンクしており、作品制作のモチベーションが非常に明確で、表現し外部に訴えることに対する切実な想いがよく伝わってきた。年齢は若くても展覧会やレジデンスなどの海外経験はすでにとても豊富であったが、日本は未経験で、アーカスにとって初のエルサルバドルからの招聘ということも考慮した。(2016年度ゲストキュレーター 服部浩之)

2016 Resident Artist

ガン・シオン・キンGan Siong King

マレーシア

 

1975年マレーシア、ジョホール生まれ、クアラルンプール在住。1996年マレーシア芸術学院油画専攻修了。主な展覧会に「The Horror The Horror」(Art Printing Works Warehouse,クアラルンプール,マレーシア,2016)、「Looking Ahead」(フェルガナアートスペース,ペナン,マレーシア,2015)、「The Pleasures of Odds and Ends」(FEEKA,クアラルンプール,マレーシア,2014)、「Contemporary Rhetorics」(ヴァレンタイン・ウィリー・ファインアーツ,クアラルンプール,マレーシア,2010)がある。マレーシアを中心に作品制作と発表を続ける。作品において「遊び」の感覚を大切にし、笑いやユーモア、喜びを探求する。しかし、その作品は感覚的というより、むしろコンセプチュアルで絵画の根源的構造などを探求するものだ。近作では、展覧会制作そのものをひとつの作品と定義し、ひとりの人物をモデルにした12枚の同じポートレイトを描き、各絵に異なったタイトルを添えることで、人のアイデンティティと文脈の関係やその不確実さを思考するセルフキュレーションによるプロジェクトを実施した。

活動の様子

Shooting harvest of soba

Presentation to the visitor

“Meeting People is EASY!!”

Shooting Moriya Soba-Uchi Club

オープンスタジオ

yarimoriya
A series of videos on Instagram

 

 

アーティスト・ステイトメント

レジデンス期間中、私は見て、聞いて、生活し、ビデオでの制作を進めます。2つのプロジェクトに取り組んでおり、ひとつは守谷市の住人とのコラボレーションによる20分のビデオエッセイです。制作過程がどのように進もうと、最終的には仕事と家(home)についてのものになるでしょう。

もうひとつは、滞在期間中に続けているマイクロビデオエッセイです。滞在中にこれらのマイクロビデオを作り続け、インスタグラム上にアカウント名”yarimoriya”にて公開していきます。どうぞチェックし、シェアしてください。

審査員のコメント

41歳で既に中堅の域に達し、マレーシアでは着実にキャリアを積んでいる作家だ。しかし、これまで海外での制作や発表経験があまりなかったため、今回のレジデンスで、なにか新しい発見や変化のチャンスを掴むだろうと考えた。作品は複雑な構造を備えたとてもよく練られたもので、完成度・質ともに非常に高く、作品自体に魅力があった。また、芸術の本質的意義を探求する実直な姿勢や、アーカスのレジデンスにかける強い熱意もよく伝わってきた。(2016年度ゲストキュレーター 服部浩之)

2016 Resident Artist

イェン・ノーYen Noh

韓国

 

1983年韓国、テグ生まれ、オーストリア、ウィーン在住。2016年ウィーン応用美術大学にてトランスアーツ修士課程修了。主な活動として「Aveugle Voix」(ダス・ヴァイセ・ハウス, ウィーン, オーストリア, 2016)、「To bite the tongue. Swallow. Deep. Deeper」(21世紀館,ウィーン,オーストリア,2016)、「Voice Over Three, Part I:The First Letter」(ハイリゲンクロイツァーホーフ,ウィーン,オーストリア,2014)などがある。また2013年にGlogau AIR (ドイツ)のレジデンスプログラムに参加している。韓国人として欧州に暮らすノーは、言語や翻訳を主題に、同一空間において互いに関連するインスタレーションとスピーチ・パフォーマンスを発表する。西欧世界で編まれるテキストがアジアなど非西欧圏へと輸入される際に、翻訳・通訳を通じて、ときに誤読や誤解なども生じるなかで、如何に解釈され、近代化にどのような影響を与えたかを考察している。近年はヴァルター・ベンヤミンによる『翻訳者の使命』というドイツ語のテキストをモチーフにして、翻訳することを介して、ポストコロニアルの諸問題の再考を試みる。

活動の様子

6 days “Librarying” at Open Studios

Collection of books related to the open proposal with cooperation of the participants and Tokyo University of the Arts, University Library

Interview with Omuka Toshiharu at University of Tsukuba

Interview with Oda Yoichiro

オープンスタジオ

CAN WE TALK ABOUT MAVO ? – A Makeshift Platform of the Japanese (Contemporary) Art Topography for All Dada in Japan

Panel discussion organized by the artist

Panelist, Uesaki Sen reading aloud “Declaration of MAVO”

アーティスト・ステイトメント

アーカイブの為の素材は、いかにしてアーカイブとなるのか?さらに具体的には、アーカイブの為の素材はいかにデータベース化され、引き継がれ、将来的に制度化されるものへと変化するのか。

この疑問を抱え、私は与えられた情報の蓄積を新たな領域へ連れ出す行為をさぐります。:それは、歴史的構築物を引き出すかのようなゆったりとした動きでしょう。

日本でのレジデンス期間中に、日本と韓国のアバンギャルドアーティストについて、また1920年代から30年代において日本の統治下にあった朝鮮のアバンギャルドアートについてのアーカイブを調査します。確かな歴史的事情に結びついたアバンギャルドアートのはかなさは、実際の出来事が仮想のものへとなる実験的な介入によって証明されるでしょう。

審査員のコメント

韓国人としてノーが抱える言語や翻訳を介した西洋文明の受容に関する問題は、日本人にとっても避けることのできない問題であり、日本のアーティストたちとも共有可能な主題であるだろう。また、ひとつの主題を様々な方法で、継続的にじっくりと探求する姿勢も評価につながった。欧州では様々な経験を積んでいるが、一方でアジアでは韓国以外での経験があまりなく、言語や翻訳について考える場合、近隣の異なった言語を用いる国での生活は重要な気付きや発見を作家に与えると 考えた。(2016年度ゲストキュレーター 服部浩之)