Exchange Residency Programエクスチェンジ・レジデンシー・プログラム

         

2017年度プログラム

2017年度は台湾の國立台北藝術大學 關渡美術館 [KdMoFA]とアーカスプロジェクトが協働し、相互にアーティスト、キュレーターを派遣/招聘しました。

アーティスト招聘期間

KdMoFA:
2017年12月1日 – 2018年1月29日(60日間)
アーカスプロジェクト:
2018年1月16日 – 2月14日(30日間)

推薦員

崔敬華
東京都現代美術館 学芸員

選考方法

派遣アーティストはアーカスプロジェクト実行委員会と、推薦員の崔敬華氏が選出した国内のアーティストから、KdMoFA が 2 名を選出。 招聘キュレーターはKdMoFA に推薦を受けた者の中から、アーカスプロジェクト実行委員会が選出。

2017 Participating Artist

磯村暖Isomura Dan

日本

1992年東京生まれ、東京在住。2016年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。2017年ゲンロンカオス*ラウンジ新芸術校第2期卒業(卒業時 金賞受賞)。主な活動に、ロンドンと東京でのレジデンスプログラム参加中に行なった個展「Two glasses of water / 2000000000000000000000000 water molecules」(The Vitrine, Central Saint Martins、ロンドン、2017)、「A glass of water / 1000000000000000000000000 water molecules」(遊工房、東京、2017)や、KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭プレ企画「藝大子アートプロジェクト」への参加などがある。また2016年より自宅でパーティーを度々主催し、2017年にネパール人移民と共に行なったパーティー 《HOME PARTY#1》をギャラリー空間内で再構築、再解釈したインスタレーション《HOME PARTY#2》(カオス*ラウンジ五反田アトリエ、東京、2017)を発表した。現在磯村はグローバリズムの転換期の景色を見つめ、訪れた土地や日本で出会う移民たちの故郷のヴァナキュラーな文化や宗教美術、物理学、SNS上の美学等を参照してインスタレーションや絵画を制作している。

Study for Joss Paper for the Lovers (Jacques Picoux and Tseng Ching-chao’s Home)
Photo by Huang Yung-En
Photo courtesy: Kuandu Museum of Fine Arts, TNUA

Visit Wei-ming temple dedicated to LGBTQ people
in Taipei City

Silk screen

推薦理由

近年の作品で磯村は、タイの現代宗教美術に内在する善悪の宗教観や、日本に滞在している難民申請者たちなどを取り上げ、キッチュかつユーモラスな表現で、私たちの眼差しに根深く存在する「こちら側」と「あちら側」といった境界を批評する。その制作において、磯村が向き合う対象との絶妙な距離感やコミュニケーションを成り立たせているのは、彼が自らや日本社会をも対象化する眼差しを持ち合わせているからではないだろうか。あらゆる境界線や区分が曖昧になりながらも、一方ではそれらが過剰に強化される現在の状況に、独特の視座から着目する磯村が、台湾で何を展開するのか期待したい。 (崔敬華)

アーティスト・ステイトメント

私は國立台北藝術大學 關渡美術館での滞在中、台湾のLGBTQに関わる歴史、そして現在までアップデートされ続ける宗教表現に関するリサーチを行うことを目的として活動を行いました。

台湾と私の母国である日本は多方面で影響を与え合い、共通点も多い中、アジアで初めて同性婚の合法化を可決した国と、未だセクシュアルマイノリティの権利に関する法整備が一向に進まない国という大きなギャップがあることに関心を持ち、そこを起点に数々の分岐を探していく試みをしました。滞在中はアジアの国立美術館で初めてLGBTQをテーマにした展覧会を企画したキュレーター、LGBTQの加護を司る神を祀る廟、ひまわり学生運動に参加していたゲイコミュニティ、台北最大のゲイクラブイベントの主催者など、様々な人や場所を訪ねる機会を得られたことが一番の収穫だったように思います。

また、アップデートされ続ける宗教表現(特に民衆によりアップデートされているもの)に関しては台湾に限らず、私が訪れる土地の先々でまず興味を持つもので、私はそこには権力による干渉のないリアルな時代毎の社会の反映を読み取ることがしばしば可能であると考えています。しかし道教の供え物であり、現世から死者に物を送る役割を持つ紙紮においては、時間の止まった死者と更新され続ける供え物の関係性へと関心が移り、帰国後も紙紮の概念に影響を受けた制作を続けています。

2017 Participating Artist

mamoru

日本

1977年大阪生まれ。活動拠点は東京、伊豆など。2016年ハーグ王立芸術アカデミー/王立音楽院にてマスター・アーティステック・リサーチ修士課程を修了。平成27年度文化庁新進芸術家海外研修制度研修員。最近の活動に「あり得た(る)かもしれないその歴史を聴き取ろうとし続けるある種の長い旅路、特に日本人やオランダ人その他もろもろに関して」(Yuka Tsuruno Gallery, 東京, 2016)、「他人の時間」(東京都現代美術館, クイーンズランド州立美術館, 2015-2016)、「THE WAY I HEAR/想像のための幾つかのスコア」(国立国際美術館, 大阪, 2015)、「MEDIA ART/KITCHEN, SENSORIUM」(アヤラ美術館, マニラ, 2013)など。近年は「あり得た(る)かもしれない」歴史と現在との接ぎ木をテーマに、レクチャー・パフォーマンス、映像、テキスト、サウンドなどの作品を制作し、歴史の複数性を扱う事を試みている。他に資料、インタビュー、フィールドレコーディングなどから過去、現在、未来/架空の「音風景」を書きおこした「THE WAY I HEAR」、身近な物や行為から生まれる微かな音をとりあげた「日常のための練習曲」など。「聴くこと」から知りうる世界を拡張し続ける。
http://www.afewnotes.com

Having a suona lesson

Film shoot at Zeelandia Fort
Photo credit: Chaong Wen Ting

Artist talk at ET@T

推薦理由

mamoruは、「聴くこと」から、ある具体的な空間や時間にアプローチする映像やレクチャー・パフォーマンスを発表してきた。近年は、歴史的な出来事や人物などについてのリサーチを重ね、実際には見て知ることができないそれらを、抽象的かつ詩的なテキストや身体的な動きも取り入れて想起させる試みも行っている。観る者はそれらの断片からイメージや物語を得るのだが、そのようなmamoruの作品はまた、「知る」とは何かを問いかけるものでもある。ここ数年、17世紀に出版された書籍のリサーチから、オランダ、インドネシア、日本のつながりを模索してきたmamoruが、今回の台湾での滞在でこれをどう発展させるのか、期待したい。 (崔敬華)

アーティスト・ステートメント

今回のエクスチェンジ・レジデンシー・プログラムでは、ここ数年来取り組んできた「あり得た(る)かもしれないその歴史を聴き取ろうとし続けるある種の長い旅路、特に日本人やオランダ人、その他もろもろに関して」というアーティステック・リサーチに関して大きな成果を見ることができた。リサーチのベースには17世紀にオランダで出版された「モンタヌス日本誌」(日本を紹介する多数のイラストを含む)やオランダと日本の歴史が交錯したインドネシアまた台湾の知られざる歴史などがある。今回はオランダ東インド会社が17世紀頃に台湾南部に建設したゼィーランディア城(現在の台南・安平)でのフィールドワークと撮影を行った。滞在中にインドネシアと日本ですでに撮影していた映像素材などと合わせて編集し、2018年2月に第10回恵比寿映像祭にて、それらをインスタレーションとして発表することができた。(2019年3月香港、2019年4月ウィーン、2019年7月に台湾にて発表の予定)。また滞在中に出会い興味をもったスオナという台湾の伝統楽器に関するリサーチとその成果はすでに構想中であったレクチャー・パフォーマンスに必要不可欠な要素として組み込まれ、恵比寿映像祭にて発表した際には、レジデンス中に出会ったスオナ奏者を招聘することも実現した。

2017 Participating Curator

ホゥ・ユークァンHo Yu-Kuan

台湾

1983年台湾、台南生まれ、台北在住。インディペンデント・キュレーター。2013年国立台南芸術大学にて芸術史芸術評論研究所修士課程修了。ホゥはキュレーションにおいて、アジアの植民地時代の歴史、グローバリゼーション下におけるローカリズム、国家間での越境、あるいは境界の形成に焦点を当てている。近年の活動に、「Crossing the Straits」(Run Amok Gallery、ペナン、マレーシア、2017)「Rhetoric of Shame」(關渡美術館、台北、台湾、2017)、「My Hometown Nan-Du: Deconstruct Nations, Reconstruct Home」(Taipei Economic and Cultural Representative Office in Japan、東京、日本、2016)、「Rat, Escaping from Dark」(2015 Artist Fair Taiwan、台北、台湾、2015)。他にも、NML Residency & Nusantara Archive Project(オブザベーションチーム、2017)、 「Kau-Puê: Art Associate」(編集、2015)、 「In the Twilight, Starting from the South: Tainan Art Space Now & Remembered 1980-2012」(共著、2012)などのアートプロジェクトにも参加している。

Studio visit to Sasakawa Haruko

Presentation

キュレーター・ステートメント

植民地支配の歴史に直面している今、私たちはかつての先人たちが負った傷をどのように明らかにし、そこに思いを馳せることができるのだろう?もちろんイデオロギーは必要だが、アーティストとは過去から学び、未来を想像するために、個人的な家族や地域の歴史を見つめ、制作へとつなぐべく、事象の観察を可能とする道筋の再形成を試みる者である。

アーティストの笹川治子が企画し、自身も参加した東京都美術館での展覧会「戦争画STUDIES」を知り、ここでの笹川の歴史への向き合い方と、そこに内在するギャップを強調する手法に強く引き付けられた。アーカスプロジェクトでの滞在期間中に笹川のスタジオを訪問する機会にも恵まれ、そこで彼女が寄り添う文脈だけでなく、彼女自身のことをより深く知ることができた。あの展示で笹川は単に大文字の歴史と向き合うのではなく、自身の祖父が従軍した場所を訪れ、戦時中の彼の体験を、彼女の視点から再構築したのである。

アジア地域で繰り返されてきた植民地支配の事実の上で、戦争を主題とした作品の主観性はどのように提示されるべきだろう?アーティストは歴史のナラティブが示す道筋にどのように対応することができるのだろう?近代東アジア地域で繰り返された植民地支配の歴史が、20世紀におけるその地域の国々の運命をつないでいく。在期間中に継続的に観察し、考えていたことは、アーティストがどのように歴史を見つめ、そこからどのように作品を作り上げていくのか、ということである。

活動報告会

日時:2018年2月10日(土)
会場:アーカススタジオ
スピーカー:磯村暖、mamoru、ホゥ・ユークァン
プログラムに参加した3名による活動報告と今後の展望についての発表をおこなった。
アーティスト、キュレーターの視点を通して、日本と台湾という国を形づくる文化的営み、また両国が異なる立場で共有している歴史や社会問題についても知ることができる機会となった。

A suona score

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