Exchange Residency Programエクスチェンジ・レジデンシー・プログラム

         

2018年度プログラム

2018年度はスコットランドのホスピタルフィールドとアーカスプロジェクトが協働し、相互にアーティスト、キュレーターを派遣/招聘しました。

アーティスト招聘期間

ホスピタルフィールド:
2018年9月4日 – 10月2日(29日間)
アーカスプロジェクト:
2019年2月19日 – 3月6日(16日間)

連携団体 ホスピタルフィールド(スコットランド)

推薦員

堀内奈穂子
NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト] キュレーター

選考方法

派遣アーティストは、推薦員とアーカスプロジェクト実行委員会が国内のアーティストの中から選出。
招聘キュレーターはホスピタルフィールドによる推薦。

*本イベントは、2019-2020年にかけてホスピタルフィールド、コーヴ・パーク[Cove Park]、エディンバラ・スカルプチャー・ワークショップ[Edinburgh Sculpture Workshop]のスコットランドの3団体が協働し、日本のアーカスプロジェクト、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]、トーキョーアーツアンドスペースとそれぞれ連携して行うエクスチェンジ・プログラム、Scotland Japan Residency Exchange Programmeの一環として開催します。このプログラムは、駐日英国大使館とブリティッシュ・カウンシルが共同で展開する、日英交流年「UK in Japan 2019-2020」において、ブリティッシュ・カウンシル スコットランド、クリエイティブ・スコットランド、大和日英基金、グレイトブリテン・ササカワ財団の支援を受けています。

2018 Participating Artist

青柳菜摘Aoyagi Natsumi

日本

1990年東京都生まれ。東京都在住。2016年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。 ある虫や、身近な人、植物、景観にいたるまであらゆるものの成長の過程を観察する上で、記録メディアや固有の媒体に捉われずにいかに表現することが可能か。作者である自身の見ているものがそのまま表れているように経験させる手段と、観者がその不可能性に気づくことを主題として取り組んでいる。「だつお」というアーティスト名でも活動。
東京にてメディアプロダクション「コ本や honkbooks」を主宰。
https://www.datsuo.com

[主な展示・活動歴]

2018「孵化日記 2014-2015」第10回恵比寿映像祭、東京都写真美術館、東京
2016「孵化日記 2011, 2014-2016」NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 、東京
2016「冨士日記」NADiff Gallery、東京
2016「孵化日記 タイワン」kanzan gallery、東京
2015 WRO Biennale 2015、ヴロツワフ、ポーランド

Drawing from the residency

Pitlochry, the setting for the essay “Odor of the Past”
by Natsume Soseki

Aberfeldy, the burgh inspired Robert Burns to write
“The Birks of Aberfeldy”

推薦理由

昆虫や植物、身近な環境に着目し、映像や写真とともに観察対象である実際の虫などを展示するインスタレーションは、時に夏休みの自由研究を思わせる規則的な観察過程でありながら、そこに彼女自身の日常の様子が差し込まれることで、観察する側とされる側の存在やそれを記録するメディアが混在し、カオティックな空間がつくり出される。
スコットランドは、広大な湿地帯や鬱蒼とした森林など、手付かずの自然の風景が広がり、魔女や妖精の伝説なども数多く残っている。そうした自然や物語に触れることで、青柳がどのような観察対象を見つけ、彼女自身の日常と折り重ねながら新たな空間を創出するのか、帰国後の表現に期待したい。 (堀内奈穂子)

アーティスト・ステイトメント

文学の水脈を辿る
生まれ育った日本・東京から遠く離れて、異なる環境、日常、コミュニティに囲まれて自身の作品について考える時間は、作品をつくる姿勢がゆるやかに変わっていく時間でもあります。ロンドンやスコットランド出身のアーティストたちと毎日を過ごすことで、Hospitalfieldという場所がもつ文学や芸術の文脈を、生活から見つけ出していきました。環境や言語など、慣れないものの中だからこそ、改めて自身の住む都市や都市の中の自然、扱っている言葉について考えるきっかけとなった。

1ヶ月という短い滞在ではありましたが、訪れる前のリサーチや、帰ってきてから現地で知ったことを調べ直す時間を長く設けました。ヨハン・ピーター・ヘーベルの暦物語という小話に登場する「家の友」と、スコットランド民話に登場する人物の関連性を考えることをきっかけに、《言語と土地》、《口承/会話》、《文学/映像》という項目に発展させていった。

歴史小説で名声を博したスコットランドの作家ウォルター・スコットの『好古家(The Antiquary)』に登場するMonkbarnsは、Hospitalfieldを舞台にしており、それが基でアーティスト・イン・レジデンスの場所となったという歴史があります。また、夏目漱石がスコットランドに訪れた際Pitlochryで書いた『永日小品』の中の一篇を読み、「その場所を語っていく自分の言語」を探るために、『Knockwinnock』という詩を書いた。

2018 Participating Artist

高川和也Takagawa Kazuya

日本

1986年熊本県生まれ、東京都在住。2012年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。 近年は「情報が対立/結束する空間としての自己」をテーマに、精神病理学や心理学の方法論を参照にしながら映像やドローイング、テキストを使った作品の制作を行う。2017年から始めたプロジェクト《極点の現れ》では、人間が吐き出す言葉の収集やその心理的な作用についてのリサーチを行う。

[主な展示・活動歴]

2017「ソーシャリー・エンゲイジド・アート展:社会を動かすアートの新潮流」3331 Arts Chiyoda、東京
2017 アーティスト・イン・レジデンス 京都:Re-Search、京都
2016「ASK THE SELF」トーキョーアーツアンドスペース本郷、東京
2015 3331 ART FAIR 2015、3331 Arts Chiyoda、東京

The meditation room at Findhorn Ecovillage (still image from research footage)

Interview with David, who has lived in the Findhorn Ecovillage
for nearly 40 years (still image from research footage)

Participating in a volunteer program
at Ninewells Community Garden

推薦理由

高川は、哲学や精神医学などを参照しながら、「心理実験」ともいえる作品に取り組んでいる。そこからは、自己の他者性や捉えがたい曖昧な「存在」を少しでも引き寄せ、「理解不能」な他者への感覚を研ぎ澄ませようとする試みが見られる。近年は、「絶望に耐えるための言葉」をテーマに、戦争体験者の手記やうつ病を抱えた若者の日記、在日のアイデンティティを持つラッパーの表現など、異なる時代、場所、体験から紡ぎ出される言葉を収集している。
本プログラムでスコットランドに滞在し、引き続き同テーマでリサーチを続けることで、コミュニケーションの分断や翻訳の不可能性の先にある、重層的で複雑な他者への想像力へとつながることを期待したい。 (堀内奈穂子)

アーティスト・ステートメント

今回のレジデンシー・プログラムでは、スコットランド北東部にある「フィンドホーン・ビレッジ」という村に滞在して、そこに暮らす人々や彼らの生活について調査を行なった。1962年にアイリーン&ピーター・キャディー夫妻を始めとした神秘主義者達による自給自足から出発したこの村では、現在も世界中から集まった400名以上の居住者達が共同生活を送っている。「地球規模での奉仕・意識革命」、「自然との調和」、「全ての人/物に存在する“聖なるもの”への認識」の3つを精神的な支柱とする彼らは、農園や食堂等の施設運営を始め、独自貨幣の管理も自治で行っており、そうした箱庭的な共同体の運営の仕方に驚きを隠せなかった。

その中でも今回私が強く関心を示したのが、村で日常的に行われる独特の対話や瞑想についてだった。( その場に居合わせた者達が手を繋いで輪になり、各々が「今何を感じているか?」について順番に語っていく「シェアリング」と呼ばれる対話法など) 近年私は、日記やカウンセリング、詩作といった「言語を媒介とした私的経験の発露とその動機付け」をテーマにリサーチを行っており、そうした対話法はもちろんのこと、それが実践されている背景や効果について詳しく知りたいと思ったのだ。

今回の滞在では、フィンドホーン・ビレッジに住んでいる、または働いている3名の方々に、この村に移住したきっかけ、村のルールや不和、彼らの対話法や瞑想について取材と撮影をさせてもらうことができた。今後の自分の活動を下支えするリサーチ資料として活用していきたい。

2018 Participating Curator

レズリー・ヤングLesley Young

スコットランド

スコットランドのグラスゴーを拠点に現代アートの領域で活動するキュレーター。ヤングは現在、エディンバラ・スカルプチャー・ワークショップのプログラム・コーディネーターとして、レジデンスプログラムの滞在アーティスト、スタジオ利用者やメンバー、市民に向けたプログラムに取り組んでいる。また、2017年にグラスゴーで設立されたキュレーター・コレクティブChapter Thirteenの創立メンバーでもある。
2006年にマンチェスターのビジュアル・アートのインフラを探求、批評するために、James N. Hutchinsonと共に、キュレーター・エージェンシーThe Salford Restoration Officeを設立。その後キュレーターとしてArtur Żmijewski、Jeremy Deller、Dan Shipsideの展示に携ってきた。 その他にも、読書会「Reading Capital」、Imogen StidworthyとDirk Fleischmannらと共にマンチェスター・メトロポリタン大学で実施した若手アーティストやキュレーターのための教育プロジェクト「Centrifuge」、Katya Sanderと共にマンチェスター大学で実施した一般市民向けのプロジェクトなどがある。2014年から2017年にかけて、グラスゴー美術大学とグラスゴー大学が共同で運営しているMLitt Curatorial Practice (Contemporary Art) で教鞭をとった。またEsra ErsenとArtur Żmijewskiの作品に関する執筆のほか、『Towards a City Observatory』(Collective Gallery、エディンバラ、2017)へも寄稿している。

Presentation of previous projects and events

Studio visit to Yamanaka suplex

Meeting with an artist at the Contemporary
Art Gallery, Art Tower Mito

キュレーター・ステートメント

アーカススタジオに到着したとき、茨城は私が発ったばかりのエディンバラのように寒々しかった。気候が暖かくなるにつれて、アーカスのスタッフたちは私が今までおこなってきたキュレーターとしての活動と、彼らが持っている広範囲かつ素晴らしい、アーティスト、キュレーター、教育者たちとのネットワークの重なる部分を繋いでくれ、私のスケジュールが具体化しはじめた。2週間という限られた時間では、どこのアートシーンについても表層をひっかく以上のことをするのは難しいが、少なくともそれができたらという想いで活動した。滞在が終盤に差しかかるにつれて、スケジュールは予定で埋め尽くされ、多忙を極めていった。アーカスのスタジオを使い、スタッフたちと昼食をともにしていた、ゆったりとした日々は、多様で熱心な観客が参加してくれた活動報告会へとつながり、その後、京都、大阪、直島を旅して、ギャラリーを訪問し、アーティストに会い、まさに日本という国を経験する日々を過ごした。そして、それからは、せわしなく展覧会やギャラリーを訪問し、さまざまな打ち合わせのために走りまわる多忙な日々になった。時間がなくなるにつれて、最後には多少パニック気味で睡眠不足だったけれど!

今回のプログラムを通して、作品を介して政治、社会、環境問題に果敢に取り組むアーティストたちと出会い、彼らと有意義な関係を築くことができた。また、アーカスのスタッフたちと知り合い、彼らの多岐にわたる知識や優しさに触れ、その恩恵を受けた。将来的には今回知り合ったアーティストやアーカスのスタッフたちと、一緒に仕事ができる機会があればと思う。おそらく、スコットランドやイギリスから何らかのお返しを提供する、というかたちで。

活動報告会

「スコットランド/日本滞在報告:精霊と記憶を辿る道」

日時:2019年2月23日(土)
会場:アーカススタジオ
スピーカー:青柳菜摘、高川和也、レズリー・ヤング
モデレーター:堀内奈穂子
アーティストの青柳菜摘と高川和也、スコットランドのキュレーター、レズリー・ヤングの3名が活動報告を行いました。日本とスコットランドを形づくる文化的営み、アートシーン、社会的・歴史的主題など、彼/彼女らがさまざまな視点から現地で得た発見を共有できる機会となりました。

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