2019年度はスコットランドのホスピタルフィールドとアーカスプロジェクトが協働し、相互にアーティストを派遣/招聘しました。
派遣アーティストは、アーカスプロジェクト実行委員会が推薦した国内のアーティストの中から、ホスピタルフィールドとアーカスプロジェクト実行委員会が選出。
招聘リサーチャーは公募による選出 [選考:アーカスプロジェクト実行委員会、ホスピタルフィールド、Edinburgh Sculpture Workshop、Cove Park]
*本イベントは、2019-2020年にかけてホスピタルフィールド、コーヴ・パーク[Cove Park]、エディンバラ・スカルプチャー・ワークショップ[Edinburgh Sculpture Workshop]のスコットランドの3団体が協働し、日本のアーカスプロジェクト、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]、トーキョーアーツアンドスペースとそれぞれ連携して行うエクスチェンジ・プログラム、Scotland Japan Residency Exchange Programmeの一環として開催します。このプログラムは、駐日英国大使館とブリティッシュ・カウンシルが共同で展開する、日英交流年「UK in Japan 2019-2020」において、ブリティッシュ・カウンシル スコットランド、クリエイティブ・スコットランド、大和日英基金、グレイトブリテン・ササカワ財団の支援を受けています。
日本
1990年長野県生まれ、神奈川県在住。2018年東京藝術大学大学院映像研究科メディア映像専攻修了。レクチャーの形式を用いた「語り」の実践を行う。史実の調査過程から浮かび上がる事柄を複眼的につなぎ合わせ、フィクションとドキュメントを行き来する物語を構築する。日本が辿ったいびつな近代化への道のりや、大文字の歴史からこぼれ落ちてしまった出来事が物語る歴史の複数性への関心と、各地に残る伝説や遺跡などへの興味から作品を制作する。
http://tomokosato.info
2019「ふたりの円谷」上演, SHIBAURA HOUSE, 東京
2019「103系統のケンタウロス」上映、渋谷ユーロライブ、東京
2019「103系統のケンタウロス」展示、Gallery Saitou Fine Arts、神奈川
2018「瓦礫と塔」上演、浅草公会堂、東京
2018「しろきつね、隠された歌」上演、BankART Studio NYK、神奈川
Lecture performance The Reversed Song, A Lecture on “Shiro-Kitsune (The White Fox)” at Hospitalfield
Photo: Yevgen Nikiforov
The Japanese Garden of Cowden Castle,
designed by Taki Handa in the Meiji era
The garden Little Sparta,
created by the poet and artist Ian Hamilton Finlay
佐藤は、ある史実を調査する過程で新たに知り得た出来事や事実を組み立て、現代における人々の意識や社会が抱える課題などを浮かび上がらせる。例えば、岡倉天心の手による未完のオペラ作品 The White Fox を取り上げながら日本の伝説における「狐」の意味を再考したり、横浜市内にある旧根岸競馬場などの歴史的遺構をモチーフに、架空の再開発計画を語ることで今の社会を照らし出したりする。それらの作品は、映像やオブジェを使いながら彼女自身が語ってゆくレクチャーパフォーマンスや、彼女の指示によって鑑賞者が現場を訪れながら作品を経験するツアー形式をとる。スコットランドでは、パフォーマンス・アートの歴史を調査するほか、多言語によるレクチャーパフォーマンスの可能性を追究する。異なる言語文化での調査が、佐藤の表現における創造的な翻訳行為と作品の構築方法を発展させることに期待したい。 (ディレクター 小澤慶介)
私は滞在中に2つの主題をもとにリサーチを行った。1つ目は、ナラティブを基調とするパフォーマンスである。現地の作家による実践を複数観られたほか、ロンドンのLADAでPerformance-lecture Archiveと出会い、その歴史を知ることができた。エディンバラにあるストーリーテリングセンターでは、現地の人から民話や歌を聞く機会を得た。
2つ目は、個人によってつくられた2つの庭である。19世紀に日本人女性がつくった「写楽園」という西洋最大といわれる日本庭園と、詩人のイアン・ハミルトン・フィンレイが生前最期につくった「リトル・スパルタ」である。これら2つの庭は、個人が制作したプライベートなものでありながら、異国の風景を独自に映し出している。
また、滞在の終盤には旧作のレクチャーパフォーマンス《しろきつね、隠された歌》を英語話者用に再編集し、発表した。重要な要素となる日本語はそのまま残し、訳や注釈を加えることで言葉の共有を試みた。
今回の滞在は、レクチャーパフォーマンスという一人語りの実践を重ねてきた私にとって、言語を超えてナラティブを語ることについて再考できたとともに、造園という新たな手法に出会い、自身の今後における活動への展望がより拓かれたものになった。
スコットランド
自身の問題意識と観察視点を共有することから始まり、実践を通しそれらを掘り下げるマクラスキーの制作では、コラボレーションが重要な位置を占める。近年の作品では、身体の内側、または身体間に現われる相互作用と、それをコントロールし、記録する制度を問題意識の基点としている。マクラスキーはアーティストとしてだけでなく、プログラマー、ライター、エデュケーターとしても活動する。アーカスプロジェクト滞在中は、これまでのアーティストとしての関心の対象を掘り下げるべく、「Between Bodies」と題したプロジェクトのリサーチを行い、英日通訳者、守谷市を拠点とする合気道家と共に、我々がどのようにコミュニケーションを形成し、相互理解に至るのかに目を向ける。
2019 Artists’ Moving Image Festival「Hanging Out」、プログラマーとして参加、LUX Scotland / Tramway、グラスゴー、英国
2019 「these were the things that made the step familiar」 Collective、エディンバラ、英国
2019 「To: my future body」with Janice Parker、KW Institute for Contemporary Art、ベルリン, ドイツ
2019 『A Strange American Funeral』出版 (Freya Field-Donovanとの共同編集)
2019 Dogo Residenz für Neue Kunst レジデンスプログラム参加・展示、リヒテンシュタイク、スイス
Reading Performance Organ
Filming at the Tsukuba Aikido-kai Moriya Suzuki Dojo
Studio
エミー・マクラスキーは、自らの身体をメディアとして使い、パフォーマンスやその痕跡をとおしてコミュニケーションの可能性を追求している。身体間の相互作用、身体と制度の関係を探る上で、彼女はアーティストとしてだけではなく、プログラマーやライター、エデュケーターとしても活動する。それらの役割を不可分なものとして考え、複数の視点と多様な表現媒体をとおしてさまざまな身体のあり方を視覚化している。日本においては、合気道における身体の使い方を探る。その上で、母語である英語によってではなく、日本語においてそれらを捉えようとすることに、彼女自身の創作言語と方法論を相対化しながら、新しい言語や知識に出会ってゆくことを目指している。よって、その、彼女自身の創作活動のみならず、芸術をとおした異文化交流においても興味深く冒険的でもある試みを支援することにした。1ヶ月間という比較的短い期間の滞在になるが、マクラスキーが多くの発見と出会いに恵まれることを期待している。(ディレクター 小澤慶介)
アーカスでの滞在期間中には、私たちがどのように互いに意思の疎通を図り、理解しあうかについて考察した過去作品をもとに《Between Bodies》というプロジェクトのための新たなリサーチをおこなった。
この4週間にわたる日本での滞在期間中には、合気道家で指導者でもある鈴木雄大さんにお会いして、毎週2回彼が教えている上級者向けの稽古を見学し、参加し、練習生たちの動きを記録した。合気道の基礎となる動作や哲学を学び、私にとって初の映像作品を形作るであろう、さまざまなショットを撮影した。また、岩間にある合気道の開祖が設立した道場を訪問する機会にも恵まれ、夕方におこなわれる稽古の様子を撮影し、地元の合気道家や世界中から修行にきている方たちとも会うことができた。滞在最終週には、映像作家のトーマス・エアーが加わり、私の指示のもと、鈴木先生によるいくつかの特定の動きを撮影した。
また、滞在中には《Organs》という新しいパフォーマンス作品を書き下ろした。それは、日本人アーティストで、アーカスのレジデンスプログラムの過去参加アーティストでもあるmamoruによって翻訳された。mamoruとおこなった、一つひとつの言葉やそれらの語源を調べるという共同作業を通して、日本文化について理解を深めることができたと同時に、西洋文化には訳しづらい合気道に関する哲学についても考えることができた。滞在3週目には、活動報告会にて翻訳されたテキストをパフォーマンスとして発表した。彼と共有した翻訳にまつわる議論は、私の今後の制作に影響を与え続けるだろう。それは、私がどのように、そして、なぜ作品を作るのかを考える上で不可欠なものである。
日時:2020年2月22日(土)
会場:アーカススタジオ
スピーカー:佐藤朋子、エミー・マクラスキー
モデレーター:小澤慶介
佐藤朋子とエミー・マクラスキーの2名による滞在の報告会を、パフォーマンスをキーワードに行いました。
当日は活動報告に加え、それぞれパフォーマンスも披露しました。一方は言語領域の外に、もう一方は言語に向けられた2人の関心をとおして、近年、現代アートの領域でも注目を集めるパフォーマンスを掘り下げました。